1. 6.  ルマン総合優勝に貢献したMBD


 1989年ごろから本格活用してきたMILSの最初の成功事例は、1991年ル・マン24時間レースにおける総合優勝車両の開発です。このエピソードについては、自動車技術会の会誌(2003年9月)に詳しいので部分転載します。


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 1)ル・マン挑戦の歴史

ロータリエンジンがはじめてル・マンに挑戦したのが1970年、10A型エンジンを搭載したシェブロンB16(4時間でリタイヤ)。1981年からは毎年参戦が続く。1986年には、従来の2ローターを3ローター化し大幅に性能向上し、1987年にはこのエンジンを搭載したマツダ757はル・マン史上、日本車最高位の総合7位に入賞。1988年には4ローター化し、その後も革新技術を注ぎ込み、高出力と低燃費と信頼性を両立するためリニア可変吸気、3プラグ点火、2分割セラミックアペックスシールなどの採用で大幅な性能向上をはかった。究極の進化を遂げた4ローターR26B型エンジンでは、最高出力700馬力、最高回転数9000回転に達した。そして1991年、この小型軽量高性能を誇るR26B型エンジンを搭載したマツダ787Bは、日本車として過去から現在まで唯一のル・マン総合優勝という快挙を成し遂げた。実に、初挑戦から21年目であった。

 2)サーキットシミュレーションでの戦略策定

 総合優勝は、優れた技術力あってのことだが、優勝するには技術だけでは十分でない。よく、ル・マンには魔物が住んでいるといわれる。24時間、この魔物とどのように戦うかの戦略が大切だ。我々は、ル・マンを知ることからはじめた。まず、シミュレーション技術を駆使して、ル・マンサーキットの路面をモデル化した、そしてそこを走るための、車のモデル、ドライバーのモデル、を開発した。それを用いて最高の戦略を立てた。

 ル・マンのサーキットはご存知の通り一般公道であり、年に一回この公道をサーキットにかえてレースが開催される。何人たりとも事前テストはできない。この頃コースの一部が変更され、各社ともその攻略法に悩んでいた。徹底したシミュレーション実験から、ル・マンのサーキットを走るためだけに必要な車の性能を明確化し、不要な贅肉はそぎ落とした。まさにル・マンを走るために開発された車だった。このサーキットに適合させるための、ブレーキ性能、空力ダウンフォース、エンジン性能が設計された。すべてのSPECは戦略的に作りこまれた。そして、ドライバーのモデルを用い、このサーキットを最も早く24時間走リ続けるための運転のし方がコンピュータではじき出された。スピードが早いだけがいいのではない。ブレーキでの熱の発生のさせ方を管理し24時間壊れないようにしないとならないし、エネルギー節約と早さのベストバランス点をみつけ、少ない給油回数、少ないタイヤ交換で、ピットインのロスタイムを減らさねばならない。最善の方法がコンピュータ実験され、その結果がドライバーに指示された。

 最初は半信半疑だったプロドライバーも、国内での模擬テストで、シミュレーションの正しさを付きつけられ、一番良い走り方を全ドライバーが共有化できた。必勝パターンをデータ化した。

 3)1991年 ル・マン開戦 

 最高の戦略が決まったあと、車を仕上げるまでの時間余裕はなかった。ル・マンに送る車はヨーロッパで組み立てたが、車両完成はル・マン本番の直前だった。その最終仕様車をテストする場所も時間もなかった。最高車速350km/hにもなるこの車のテストには長い直線路が必要だった。急遽、イギリスのとある空港に飛び込みで掛け合い、滑走路を占有させてもらい最終テストは無事完遂した。

 そしてル・マンが始まった。787Bからはリアルタイムで、ドライバ操作とメカの生データ信号が通信システムでピットへ送信された。ピットでは、必勝パターンのデータと適合しているかどうかをマネジメントし、ずれがある場合、リアルタイムで改善指示が飛んだ。

優勝した年、マツダは世界中でだれよりも、ル・マンのサーキットと、その攻略法を理解していた。そしてその戦略をチームの全員が共有していた。最高の技術と最高の戦略でル・マンを制した。24時間で、1周13.6kmのサーキットを実に362周、平均時速205.133km/h。これは前年度優勝したジャガーを上回るものだった。

 4)量産開発に使われる ル・マンの技術

 ル・マンで使われた技術は、RX-8に息づいている。自然吸気であれだけのハイパワーを絞り出す技術、9000rpmを滑らかに回せるエンジン信頼性、可変吸気、などの制御最適化技術として。

 そして忘れてならないのは、戦略策定手法、ル・マンで使ったサーキットシミュレーションの技術は今もマツダの開発技術として進化を続けている。たとえば ある都市のハイウェイを、マツダ本社にあるコンピュータの中で走りつづけている仮想車両がある。数千、数万通りの複合テストも机上でできる。ル・マンのときと同様、机上で最高の車を構想できる。我々は世界中のあらゆる道や環境をモデル化し、最高の車を開発し、お客様に最高の喜びを提供することをめざしている。

 5)21世紀に実現したい夢

 自動車を取り巻く環境は時代とともに変化を繰り返してきた。 排気ガス対応、出力競争、燃費競争、環境対応・・・・、その度に燃焼技術、熱管理技術、排出ガス処理技術、制御技術などが目覚しく進歩してきた。 あわせて開発をサポートする技術革新も著しい。バーチャル開発の技術は進み、燃費、走り、排出ガスはシミュレーションで最適化され、代表的な環境や路面においては最高の性能を出せる車を開発できるようになってきた。しかし、世界中のあらゆる環境、あらゆる道路で、あらゆるお客様にとっての最高の性能をだすこと、、、これらを1つの車で満足させることは現在はまだ難しい。

 しかし、車自身が、環境を把握し、その場の環境に適合してくれたらどうだろう。最高のメカニックと最高のドライバーの頭脳を搭載した車。緑の地球に配慮しながら、人の喜びを測りながら、自然体で、動物のように存在する車。そして、車としての使命を終えたら、リサイクルされ、最後は土に還元される車。土は緑の植物を育む。自然の輪廻のなかで、自然体で存在する車。緑の地球と車の共存、これがエンジニアの夢だ。エンジニアは皆この"心"、 "志"を持っていると思う。 自分達の子孫に美しいままの地球を残すと言う「夢」の為に微力ながらも貢献したいものである。 



   以上の文章は、2003年に、私が書いたものであったが、

 あながち外れていない、CASE、SGDsの時代が到来した、と思っている。 

 

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