1. 4. 燃焼モデルの開発エピソード


 この章も「SecJournal2012(IPA誌):世界一のため、創造のためのモデルベース開発(MBD)へ」から転載させていただく。

 ●SKYACTIV技術について~燃焼モデル化~

エンジンの燃焼効率改善についての取り組みを紹介する。SKYACTIVの1stSTEPで燃費を大きく改善した最大の要因は、何といってもエンジン燃焼の革新であった。現状、燃焼効率の良いエンジンでもエネルギー効率は3割程度であり、7割は損失として失われている(図4)。しかし、マツダは究極の燃焼効率を目指し、3-STEPで到達する道を描いている。電気部品のエネルギー効率がすでに9割を超えていることに比べると、エンジンはまだまだ大きな改善の余地があり、宝の山である。燃焼効率の改善には、エンジンの圧縮比(吸い込んだ気体を何倍の密度に圧縮してから燃焼させるかの比率)を上げれば上げるほど良いことは知られているが、これには、異常燃焼という悪魔の現象を伴うことから、誰も達成出来なかった。

ここでSKYACTIVエンジンが産声を上げたときの圧縮比に関するエピソードを紹介しよう。担当のチーフエンジニアが圧縮比15のエンジンを回してみることを構想した。圧縮比12が困難なときに15は正気の沙汰ではない。他の担当者たちは、「ものになるわけがない」「ご乱心か?」と陰で揶揄した。
しかし、回した結果は、想定よりもトルク低下は少なかった。担当者は「実験ミスだと思い何度も確かめた」と後述している。あとから分かったことだが、着火前の低温酸化反応で燃焼に変化が生まれていた。思ったほどトルクが落ちなかったとはいえ、悪魔の異常燃焼は存在しており、実用化のために解決しなくてはならない問題は山積みだった。その後、様々に設計変更して研究を進めたが、当初、実験結果とシミュレーションは合わなかった。当時の燃焼CAEモデルでは説明が付かなかったのである。そのカラクリは容易には見えてこず、途方に暮れた。そこで、エンジンの燃焼室内部を観察出来る、一部がサファイアガラスで出来た特殊なエンジンを試作した。すると、燃焼する直前、CAEモデルで予測したのとは逆向きの混合気流動渦があることが分かった(図5)。これには愕然とした。説明が付かなかった。そのときから苦しい日々がはじまった。CAE技術者とエンジン設計者と実験者とが一体となって、燃焼のカラクリを説明出来るモデルの構築をとことん追求していった。

そして、開発過程に私たちが手に入れた技術力レベルを説明する逸話がある。いつもはピリピリした開発進捗会議でのこと、主担当者がこのモデルの技術的解釈を説明し終えたとき、どこからともなく賞賛の拍手が沸き起こり、止まらなかった。最初はモデルに懐疑的であった開発の最前線の専門家たちが、開発後半で語ってくれたのは、「このモデルが無ければ、この燃焼は絶対に実現出来なかった」という言葉であった。

モデルが信用出来るようになれば、机上での仮説検証はいくらでも出来る。机上とはいえ無作為に試行錯誤するのではなく、コモンアーキテクチャ※7という技術思想に沿って、狙い通りに良い燃焼特性を創造することにもチャレンジした。SKYACTIVでは、排気量が異なるエンジンでも、狙った特性に揃えることに成功した。従来のこの道の常識では出来るはずのないものであった。





 

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〜 ミスター・モデルベース開発       と呼ばれた男の独言 〜

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