2. Rapid-ECUについて
過去に私が書いたものから、そのまま引用させていただくことにします。
「SecJournal2012(IPA誌):世界一のため、創造のためのモデルベース開発(MBD)へ」からです。この原稿の元ネタは、この前年、ET2011で基調講演をやらせていただいたので、ほぼそのままです。
エンジン制御用のRapid-ECUを完全内製で開発したのは、1987年であった。複雑に見えるECUの周辺回路も分析すれば、10種程度の入力回路&出力回路に整理でき、これをあらかじめ備える構成とした。マイコンボードも内製である。これとセットで、制御用言語の開発も内製で行った。50種ほどの関数(現在でいう関数アイコン)の組み合わせだけで、自由にエンジン制御を開発出来る環境を構築した。このMBDツール群は、 FICCS(FunctionIntegratedComposerwithControlSymbol)と呼ばれ、1991年に量産されたRX7(FD3S型ロータリーエンジン)の技術開発から活用された。当時、RX7は加速時のひどい振動で苦しんでいて、加速振動と逆位相でトルクを制御し、振動をピタッと止める点火アクティブ制御をモデルベースで取り組んだ。当該部分の制御ロジックの開発着手からキャリブレーション終了までを1週間でやりきった。当時、この作業は半年かかるのが普通だったため関係者を驚かせた。このとき、車の走行をシミュレートするシンプルモデルも作り、点火アクティブ制御の動作検証もモデルで行った。そのロジックをすぐに実車搭載出来た。振動はすぐに抑制出来たが、最後まで苦労したのは加速フィーリングだった。同乗したテストドライバーの駄目出しの意味を理解しながら、テストコース横に車を止めて10分で対策制御ロジックを作り、即実車確認することを数度繰り返した。1988年8月にこのFICCSでの仕事が成功したことを覚えている。

この成功の日は私の誕生日であったので、一生忘れられない日となった。 もちろん夜には乾杯した。
rapidECU(技術開発用 汎用型 電子制御ユニット)、現代ではその代表ツールとして、dSPACE製などの便利なものがあり買うことができるが、当時は製品が存在していない時代だった。この当時のこのツールには、超短期に試作対応できるように種々の工夫があった。過去のエンジン制御系の入出力回路や、駆動系制御ユニット、、、様々な電子制御基板の研究から、回路のパターン性を整理し、これだけ標準装備していればどんな制御だってすぐ対応できるぞ、というくらいたくさんの入出力ポートを備えていた。たとえば、燃料噴射インジェクタや 点火パルス駆動回路、これらの出力駆動回路の制御には、贅沢にも1ポートずつに、Intel製8253という プログラマブルタイマーICを備え、所望タイミングAで所望パルス幅Bの駆動が、AとB、2個のデータを予め書き込んでおけば、あとは自動でできるようにしていた。

1msec毎に動くモジュールをはじめとして、2,4,8,16,32,64,128,512msec毎に動かした。
これとは別に、エンジン回転に合わせて動く非同期モードがあり、エンジン回転 360度に1回の計算を行うモジュールをはじめとして、180度、30度、、、これだけ多くのスケジュラーを、CPUの処理に一分の隙もないほどに、整然と動かすことに苦労した。
ミドルウェア部分は、前述のプログラマブルタイマーIC、プログラマブルペリフェラルIC、DA変換IC、AD変換ICを、プログラムで標準化した作りにして、それぞれ数個のパラメータ設定すれば、高度なことが簡単にできるように作り込んだ。こうしておけば、エンジン制御のアプリからは、人間のわかりやすい物理量で扱える。
アプリ部分は、タイマー制御関数、ディレイ関数、ワンショットなどの応答関数、テーブル関数、マップ関数、フィルタ関数、を50種ほど用意し、一行もベタで書くことなく、その関数の呼び出しのみで、複雑なエンジン制御の全てを記述表現できるようにしていた。まさにレゴブロック的ソフトウェア。
当時、量産Tier1メーカーさんでは、一行づつベタ書きするアセンブラをつかっておられた。もちろん、いわゆる汎用関数は整理されていたけれど、レゴブロックとは程遠かった。つまり、この当時、開発中のRX7は、機能は同じだけれど作りの違う 2種の 制御コンピュータ があったということになる。
我がFICCSは、素晴らしい優位性があった。たった50個の 品質確認されたレゴブロック的ソフト部品でのみ構成されているので、一行づつプログラム記述するのではなく100行づつくらいをいっぺんに記述するに等しいのでアプリ開発速度が100倍ほど早く、人間系のミスによるバグが混入する余地がなく品質問題も出ないのである。Tier1さんはチームで開発、こちらはわたし一人で開発なのにこちらが早い! これは快感だった。
もう一つ、面白いエピソードを思い出した。

今もこのRX7は人気だ。つい先日、めざましテレビで、これが盗難被害にあったとの報道。高値で取引されてるらしい。10年くらい前に、懐かしくて、買うふりをして試乗させてもらったが、いまだに最高のレスポンスと制振性だった。ワクワクした! でもあの制御を抜いたら、いまでも「あんま機」だろうな、とひとりでニヤついた。戦闘機が制御なしでは不安定で飛行不可能な設計であることは有名だが、RX7もそれだな。
なんで昨日の夜ごはんも思い出しにくくなった私が、こうもすらすら、半導体チップ番号や、様々な当時の仕様を思い出せるのかは、自分でも謎である。
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〜 ミスター・モデルベース開発 と呼ばれた男の独言 〜
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